企業が新たに従業員を採用しようとした場合、候補者の前歴は気になるポイントです。十分なスキルや経験を培ってきた候補者であれば、入社後に能力を発揮してくれるでしょう。
一方、履歴書や職務経歴書には十分なスキル、経験が記載されていたとしても、虚偽の可能性があります。このような候補者の経歴詐称に対して効果を発揮するのがリファレンスチェックです。
この記事ではリファレンスチェックの実施方法やメリット、デメリットなどを解説します。
リファレンスチェックとは「身元照会」の意味

リファレンスチェックとは「身元照会」を意味します。一般的にリファレンスチェックは企業が採用する人材(候補者)に対して実施します。そのため、「職歴調査」とも呼べるでしょう。
オンライン面接が一般的になった現代においては、候補者と直接対面する機会が減ってしまっている企業もあります。そのため、リファレンスチェックで候補者の人となりを把握することが重要になっています。
リファレンスチェックは、少子高齢化によって労働力が不足している現代では重要な調査です。内閣府『令和4年版高齢社会白書』では、今後日本は15歳から64歳の生産年齢人口が減少していくことが予想されています。(※1)
1995年には8,716万人だった生産年齢人口が、2065年には4,529万人まで減少するとされています。そのため、リファレンスチェックによって自社にあった従業員を確保することが大切です。
(※1)内閣府:令和4年版高齢社会白書
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
前職調査との違い
リファレンスチェックに似た言葉として前職調査が挙げられます。どちらも候補者について客観的に調査します。
しかし、リファレンスチェックは候補者の前職の同僚などから情報をヒアリングするのに対して、前職調査は候補者から聞いた内容に基づいて事実調査をします。
そのため、リファレンスチェックでは候補者の人柄やコミュニケーションスキルなどを調査する一方、前職調査の内容は学歴や職歴・経歴の調査です。
リファレンスチェックが行われるタイミング

リファレンスチェックが行われるタイミングは企業によって異なります。しかし多くの企業において、リファレンスチェックは一次選考を終えてから最終面接終了までの期間に実施されています。
候補者に内定を出す前にリファレンスチェックをすることで、採用のミスマッチを防止可能です。
リファレンスチェックを行うメリット
リファレンスチェックを行うことで得られるメリットとして以下が挙げられます。
- 職歴・経歴詐称を発見できる
- ミスマッチを防げる
- 採用活動の効率化
- 信頼関係の構築
リファレンスチェックは候補者のスキルを測るだけでなく、信頼関係も構築できるため、採用後にスムーズに業務を進められるでしょう。
職歴・経歴詐称を発見できる
候補者に対してリファレンスチェックを行うことで、職歴や経歴に詐称がないかを確認可能です。
一般的に採用面接では候補者が履歴書や職務経歴書を持参します。これらの書類はあくまで候補者が作成したものであるため、なかには自分を魅力的に見せようと職歴や経歴を詐称してしまう人もいます。
人によっては悪意がなく無意識のうちに職歴や経歴を改変しているケースもあるでしょう。リファレンスチェックを行うことで、このような職歴、経歴の詐称を発見できます。
ミスマッチを防げる

候補者がどれだけスキルや知識があったとしても、企業の風土や文化と馴染めなければ早期の離職につながりかねません。このような採用のミスマッチを防ぐのに効果的なのがリファレンスチェックです。
候補者の前職の同僚や上司に人となりや仕事に対する姿勢などをヒアリングすることで、自社の風土や文化に馴染めるかどうかを判断できます。
リファレンスチェックをせずに採用ミスマッチが発生してしまうと、次のようなデメリットにつながりかねません。
- 採用コストがかさんでしまう
- 残った社員のモチベーションが低下する
- 企業の信頼が低下する
採用コストがかさんでしまう
採用ミスマッチで社員が早期離職してしまうと、新たに採用をかける必要があります。採用には一定の費用がかかります。例えば求人サイトに情報を掲載するのには費用が必要です。また、社員の教育にかかるコストもかさんでしまうでしょう。
残った社員のモチベーションが低下する
採用ミスマッチが何度も発生すると残った社員のモチベーションが低下し、組織としての生産性まで低下する恐れがあります。組織の生産性を低下させないためにも、採用ミスマッチを防ぐことが大切です。
企業の信頼が低下する
採用ミスマッチが繰り返し発生すると、退職者が口コミサイトなどに情報を掲載する可能性があります。その結果、企業の信頼が低下しかねません。企業の信頼が低下すると新たな採用活動の枷となるだけでなく、取引先の印象も低下する恐れがあります。
採用活動の効率化
リファレンスチェックは採用活動の効率化というメリットもあります。リファレンスチェックを行うことで、候補者のコミュニケーション能力やストレスへの耐性などを把握できます。従来は候補者について深く知るために、何回かの面接をこなす必要がありました。しかし、リファレンスチェックを行うことで効率的に候補者のコミュニケーション能力やストレス耐性などを判断可能です。
信頼関係の構築
リファレンスチェックは企業と候補者の信頼関係構築にも役立ちます。リファレンスチェックによって職歴や経歴に虚偽がないことが分かれば、候補者に対する信頼が増すでしょう。一方、候補者も自身の職歴や経歴を証明できるため、働きやすくなります。
リファレンスチェックを行うデメリット
リファレンスチェックはメリットだけでなく、次のようなデメリットもあります。
- リファレンスチェックを拒否される可能性がある
- チェックに時間がかかる
- 候補者の同意が必要
候補者のなかには、リファレンスチェックに対して否定的な考えを持っている人もいるでしょう。そのため、確実にチェックできるわけではありません。
リファレンスチェックを拒否される可能性がある
リファレンスチェックを行おうとしても拒否されてしまう可能性があります。リファレンスチェックでは候補者が申告した推薦者や以前勤めていた勤務先にヒアリング(リファレンス)を行います。そのため、候補者本人だけでなく、推薦者や以前の勤務先から拒否される可能性もあるでしょう。候補者本人がリファレンスチェックを拒否した場合、選考そのものを辞退される可能性があります。
リファレンスチェックを拒否された際、候補者を採用するのかどうかは企業によって異なります。なかには拒否されたことを理由に不採用にするケースもあります。リファレンスチェックをしていない候補者はほかの候補者よりも採用リスクが高いため、採用の拒否も可能です。
一方、リファレンスチェックを拒否されたとしても採用することもあるため、どのように対応するかは自社で話し合いましょう。
リファレンスチェックが拒否される理由
リファレンスチェックが拒否される理由はさまざまです。例えば候補者が推薦者を挙げられない場合は、リファレンスチェックを拒否されてしまうでしょう。
また、推薦者が忙しい、転職活動の責任を負いたくないなどの理由で拒否される可能性があります。
チェックに時間がかかる
リファレンスチェックは、質問事項の作成やリファレンス先の相手との日程調整など、実際にチェックに進むまでにある程度の時間が必要です。そのため、リファレンスチェックを行おうとすると、自社の採用担当者に負担がかかります。
候補者の同意が必要
リファレンスチェックは候補者の同意が必要です。リファレンスチェックでは候補者の職歴や経歴などの個人情報を取り扱います。そのため、同意なしに進めてしまうとトラブルにつながりかねません。
リファレンスチェックを行うためには候補者の同意を得ておきましょう。
リファレンスチェックの流れ
リファレンスチェックを実施するタイミングは企業によって異なりますが、実施にあたっては次のような流れで進んでいく傾向にあります。
- リファレンスチェックの同意を得る
- 推薦者を紹介してもらう
- 質問に基づいて推薦者に取材する
- 回答をレポートにまとめる
リファレンスチェックの同意を得る

リファレンスチェックを進めるには候補者から同意を得る必要があります。候補者によっては、実施の理由について十分理解していない可能性があるでしょう。
そのため、リファレンスチェックとはどのようなものか、なぜ実施するのかなどをしっかりと説明しましょう。
なお、個人情報を取り扱うため、口頭ではなく書面で同意を得ておくことが大切です。口頭で同意を得た場合、認識が食い違う可能性があります。書面で同意を得ることで後々のトラブルリスクを回避可能です。
推薦者を紹介してもらう
候補者から同意を得たら、誰に質問をするのか候補者から推薦者を紹介してもらいましょう。推薦者への交渉は候補者が行うのが一般的です。推薦者は候補者の前職の元上司になる傾向にあります。1人の元上司からヒアリングするよりも、2人からヒアリングする方がより効果的でしょう。
なお、推薦者が全員承諾するとは限りません。そのため、多めの人数を推薦してもらいましょう。
推薦者との時間調整も大切
いつ推薦者に連絡するのかといった時間調整もリファレンスチェックを進めるうえでは欠かせません。一般的にリファレンスチェックは30分程度のヒアリングを実施します。推薦者と時間調整する際は目安となる時間を伝えておきましょう。
なお、候補者の役職によってはヒアリングの時間が長引く可能性があります。時間が長引くようであれば必要に応じてメール回答に切り替えることも大切です。
質問に基づいて推薦者に取材する

候補者から推薦者を紹介してもらったら、質問に基づき取材(ヒアリング)を進めていきます。必要以上に質問して予定時間をオーバーすると推薦者の業務に支障が及んでしまいます。予定どおりに質問するためにも事前に自社でシミュレーションをしておくのがおすすめです。
回答をレポートにまとめる
推薦者にヒアリングした内容をレポートにまとめて採用担当者ほか関係者に共有します。レポートには次のような内容を記載しましょう。
- 推薦者について
- 質問内容とその回答
- 総評
回答結果をまとめたレポートの形式が担当者によってまちまちでは、確認が遅くなりかねません。スムーズに確認作業を進めるためには、事前にレポートの形式を整えておきましょう。
リファレンスチェックの質問例
リファレンスチェックでの質問は次のとおりです。
- 勤務状況について
- 自分について
- スキルについて
それぞれ具体的な質問例を解説します。
勤務状況について

候補者がどれくらい勤務していたのか、どのような業務を担っていたのかなどの勤務状況を質問します。質問の際は候補者から提出された職務経歴書と比べてみましょう。比較することで経歴に嘘がないのかを確認できます。
在籍年数を確認する際の質問例
在籍年数を確認する際の質問例は次のとおりです。
- 〇〇さんは御社で〇年〇月~〇年〇月までの在籍という認識でよろしいでしょうか
- 〇〇さんが御社で担当していた仕事内容はご存じですか。可能であれば差し支えのない範囲でご教示ください
職務における経歴を確認する質問例
職務における経歴を確認する際の質問例は次のとおりです。
- 御社における〇〇さんの役職やマネジメントしていた人数を教えてください
- 〇〇さんは〇〇年度に〇〇賞を受賞したことに間違いはないでしょうか
自分について
候補者(自分)については、人間関係や勤務態度、業務に対する姿勢などを確認しましょう。自社の風土や文化になじめるかどうかは定着するうえで大切な要素なので、推薦者を通じて確認することが大切です。
人間関係について確認する質問例
人間関係について確認する質問例は次のとおりです。
- 〇〇さんは周囲とスムーズにコミュニケーションを取れてましたか
- 〇〇さんとの関係を教えてください
- 〇〇さんともう一度一緒に働きたいと思いますか
勤務態度について確認する質問例
勤務態度について確認する質問例として以下が挙げられます。
- 〇〇さんの勤務態度について教えてください
- 〇〇さんの勤務態度で気になることはありますか
スキルについて

候補者がどのようなスキルを持っているかは、業務を進めるうえで大きな要素です。自社や業務で求められるスキルを備えていなかった場合、採用のミスマッチにつながりかねません。そのため、どのような成果、実績を持っているのかを確認しましょう。
特に自身の強みや弱みは本人は気付かないものです。第三者である推薦者の意見を参考にしましょう。
成果・実績について確認する質問例
成果・実績について確認する質問例は次のとおりです。
- 〇〇さんがあげた大きな成果を教えてください
- 〇〇さんが大きな成果をあげられた(あげられなかった)理由はなんだと思いますか
強み・弱みについて確認する質問例
強み・弱みについて確認する質問例は次のとおりです。
- 〇〇さんは個人とチーム、どちらが力を発揮していましたか
- 〇〇さんはリーダーシップ、メンバーシップどちらが優れていると思いますか
リファレンスチェックの注意点
リファレンスチェックを実施する際は質問だけでなく、次のような点にも注意しましょう。
- リファレンスチェックに基づく内定取り消しができない可能性がある
- 自社で基準を設ける
- チェック結果を鵜呑みにしない
- 法律に抵触する可能性がある
特にリファレンスチェックに関わる法律を把握しておかないと、思わぬトラブルにつながりかねないため注意が必要です。
リファレンスチェックに基づく内定取り消しができない可能性がある

内定を出したあとにリファレンスチェックをすると、自社が求めるスキルがなかった場合などに内定取り消しができない可能性があります。
内定は労働契約を結んだとみなされるため、調査の結果に基づいて一方的に取り消しを言い渡すことは違法行為にあたりかねません。内定取り消しによるトラブルを防ぐためには、内定前にリファレンスチェックを実施しましょう。
リファレンスチェックで内定取り消しが認められるケース
リファレンスチェックの結果、内定取り消しが認められるケースがあります。例えば候補者が経歴を詐称していた、前職で懲戒処分を受けていたことを隠していたといった場合は、内定取り消しが認められる可能性があります。
しかし、内定取り消しが認められるかの判断は難しいため、可能な限り内定前にリファレンスチェックを実施しましょう。
自社で基準を設ける
リファレンスチェックを実施する際は自社で基準を設けましょう。リファレンスチェックでどのような項目をどれくらいチェックすればよいのかという基準は、採用担当者ごとに異なる可能性があります。
自社で基準を設けておくことで、リファレンスチェックの結果で意見が分かれるリスクを回避可能です。
チェック結果を鵜呑みにしない
リファレンスチェックの結果は鵜呑みにしないことも大切です。候補者と推薦者との関係性によっては、公平に意見を得られない可能性があります。
例えばうわべだけの質問を推薦者にしていては、候補者本人の回答と差がないかもしれません。そのため、質問内容に工夫を凝らしたり、それまでの面接の様子などを加味したりして、総合的に候補者について判断しましょう。
法律に抵触する可能性がある

リファレンスチェックの実施にあたっては、関連する法律への理解が求められます。例えばリファレンスチェックでは候補者の個人情報を取り扱うため、個人情報保護法に則る必要があります。
そのため、リファレンスチェックで個人の情報を第三者に無断で渡すと罰則が科せられる恐れがあります。
法律以外にも注意すべき点がある
リファレンスチェックで注意すべきなのは法律に限りません。厚生労働省では次のような個人情報は本人の同意を得るか本人から直接提供されない限り、収集が認められないという指針が設けられています。(※2)
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
(※2)厚生労働省 熊本労働局:公正な採用選考のために
https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/jigyou07.html
リファレンスチェックを実施して採用ミスマッチを解消しよう
リファレンスチェックとは、候補者が経歴や職歴を詐称していないか調査する取り組みです。リファレンスチェックは候補者に紹介してもらった推薦者に質問をして進めていきます。
リファレンスチェックを実施することで職歴・経歴詐称を発見できる、ミスマッチを防げるといったメリットがある一方、個人情報を取り扱うため関連する法律を守ることが大切です。