過去に逮捕された経験がある場合、必ず前科がつくと一般的に思われているかもしれません。しかし、逮捕されたからといって前科がつくわけではありません。前科がつくかどうかは条件によって異なります。
そのため、自社が採用を予定している候補者が、過去に逮捕されていても前科がついていない可能性もあります。
この記事では採用後者の前科、経歴の調べ方、前科についてよくある質問などを解説します。
前科とは?

採用候補者の前科について調べる前に前科について把握しておきましょう。
前科とは有罪の判決を受けた経歴を指します。前科があるといっても、具体的にどのような経歴なのかは人によって異なります。前科のパターンは主に次のとおりです。
- 懲役の実刑を受けて服役した
- 執行猶予付きの判決を受けた
- 罰金刑を言い渡され罰金を支払った
- 略式命令を言い渡され罰金を支払った
前科は「犯」の単位でカウントされます。例えば前科二犯というケースでは2回刑罰を言い渡されたということです。
逮捕歴と前科の違い
前科に似た言葉として逮捕歴が挙げられます。逮捕歴とはその名のとおり、逮捕された回数です。前科は逮捕・起訴されて、裁判にて有罪判決を言い渡された経歴です。一方、逮捕歴は逮捕された経歴を指します。
逮捕されたとしても、不起訴であったもしくは起訴されても無罪だったというケースでは前科はつきません。例えば2回逮捕されて、そのうち1回は不起訴、1回は罰金刑で罰金を支払っているという場合、逮捕歴は2回、前科は1犯です。
不起訴と前科の違い
逮捕されても不起訴になったのであれば前科はつきません。起訴するかどうかは検察官が判断します。不起訴であった場合は前科はつかないものの、前歴がつきます。
不起訴にはいくつかの種類があります。嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予などが不起訴の理由ですが、いずれも前歴として記録が残ります。
スピード違反と前科の違い
スピード違反や駐車違反、一時停止違反といった交通違反をしてしまったという人もいるかもしれません。スピード違反や一時停止違反は、比較的経験している人が多い違反です。内閣府が発表した『 令和2年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況』によれば、一時停止違反、スピード違反をした人の人数は次のとおりです。(※1)
- 一時停止違反:160万4,972件
- スピード違反:116万2,420件
一時停止違反、スピード違反も交通違反にあたるため、法律に違反したことになります。
しかし、超過速度が少ない、悪質性のない駐車違反などは、交通違反通告制度によって反則金を支払うことで刑罰は発生しません。そのため、前科が残ることはありません。
一方、過度なスピード違反の場合、簡易裁判所にて略式裁判が開かれるため、前科として残ってしまいます。また、反則金を支払わなかった場合も前科がつく可能性があります。
前科を調べる6つの方法
採用候補者に前科があるかどうかを調べる方法として、以下が挙げられます。
- 報道機関の発表
- ネット検索
- 犯罪経歴証明書を取得してもらう
- 不起訴処分告知書を取得してもらう
- 関係者への聞き込み
- 探偵に調査を依頼する
報道機関の発表

新聞やテレビのニュースなど、報道機関の発表を調べることで採用候補者の前科を把握可能です。テレビのニュースの場合、録画していない限り、後日に確認することができません。一方、新聞であれば図書館に所蔵されているのが一般的なため、後日であっても報道内容を調べられます。注意すべきなのは、報道機関で発表していない犯罪もあるということも理解しておく必要があるという点です。
ネット検索
ネット検索も前科を調べる方法のひとつです。特に新聞社のホームページでは過去の報道内容を調査できます。もし掲載期限が切れている報道であっても、第三者のブログなどに転載されている可能性があるでしょう。
第三者のブログをはじめ、一次情報が定かではないケースは信ぴょう性が低い可能性があります。信頼に足る情報かどうかを確認するために、複数のソースを確認しましょう。
犯罪経歴証明書を取得してもらう
犯罪経歴証明書とは前科がないこと、過去に犯罪を犯していないことを証明する書類です。
犯罪経歴証明書を取得してもらうのは、国外に移住するケースや国外企業に就職するケースのみです。国内企業が求職者を採用する際には犯罪経歴証明書を発行してもらえません。
不起訴処分告知書を取得してもらう
不起訴処分告知書とはその名のとおり、不起訴になったことを証明できる書類です。不起訴処分告知書は検察庁から取得できます。
新聞やテレビで逮捕の報道が出ても、その後の起訴か不起訴かの報道が出ないケースもあるでしょう。逮捕されていても起訴されていなければ前科はつきません。
そのため、採用候補者が過去に逮捕されていることを把握したのであれば、必要に応じて不起訴処分告知書を取得してもらいましょう。
関係者への聞き込み

関係者に聞き込むことで、採用候補者の前科を把握できます。
聞き込みによって前科を把握する際は、誰にヒアリングするかを決めておきましょう。例えば求職者の親族に前科についてヒアリングしたとしても、本人のことを思って教えてくれない可能性があります。
また、元同僚や近隣の人には前科を隠している可能性があるでしょう。そのため、求職者が以前住んでいた地域や地元の同級生などにヒアリングしてみましょう。
関係者に聞き込みをする場合は目的を伝える
関係者に聞き込みをする場合は、なぜ情報が必要なのか目的を伝えます。目的を伝えずなければ相手から情報を得られない可能性が高いでしょう。
また、身分を偽って個人情報を得る行為は個人情報保護法で禁止されています。そのため、関係者に聞き込みをするのであれば、目的を伝えるようにしましょう。
探偵に調査を依頼する
採用候補者に前科があるのかどうかは、探偵に依頼することでも調査可能です。一部の探偵は裁判所の刑事訴訟記録を確認できます。
警察はもちろん、裁判所や検察が身辺調査のために刑事訴訟や前科の記録を公開することはありません。しかし、裁判所はその日に予定されている刑事訴訟の開廷表を公開しています。
そのため、裁判所で公開されている開廷表を記録していくことで、刑事訴訟記録をデータベース化可能です。一部の探偵であれば、このような独自の技術によって採用候補者に前科がないかを調査できます。
前科や犯罪履歴のチェックが認められるケース

前科や犯罪歴のチェックが認められるケースとして、外国企業への就業や移住などが挙げられます。このようなケースであれば、警察署から犯罪履歴証明書を発行してもらえます。
外国では一部事業に従事する際に前科や犯罪歴を確認することがあります。
このような流れは日本においても起きています。例えば、2024年5月には子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度、日本版DBSを導入するための法案が衆議院の特別委員会で採決~可決されています。
日本版DBが導入されれば、教師をはじめとした子どもに接する職業は性犯罪歴の有無が確認されます。
採用者の前科や職歴をチェックするメリット
採用者の前科や職歴をチェックすることは、企業に次のようなメリットをもたらします。
- 反社会的勢力との関係が分かる
- 履歴書・職歴に偽りがないかが分かる
- 応募者へのメリットもある
採用者の前科、職歴をチェックしないでいると思わぬトラブルにつながりかねません。そのため、早めに前科や職歴をチェックしておきましょう。
反社会的勢力との関係が分かる

採用者が反社会的勢力と関係を持っているかどうかを、前科をチェックすることで把握可能です。反社会的勢力とは法務省の定義によれば、次のような存在です。
- 暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人
上記のような存在となると暴力団をイメージするかもしれません。しかし、反社会的勢力とは暴力団に限りません。暴力団以外にも暴力団準構成員、暴力団関係企業なども反社会的勢力に含まれています。
反社会的勢力との関係がある求職者を採用してしまうと、さまざまなトラブルにつながりかねません。そのため、採用前の身辺調査で反社会的勢力との関係を把握しておきましょう。
反社会的勢力と関係がある求職者を採用した場合のトラブルとして以下が挙げられます。
- 金融機関からの融資停止
- 取引先や顧客からの信用低下
- 社内の従業員への影響
金融機関からの融資停止
金融機関は、反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進を掲げています。そのため、自社が反社会的勢力と関係する従業員を雇用していると発覚した場合、金融機関からの融資が停止する可能性があるでしょう。(※2)
金融機関からの融資が停止してしまうと、事業の存続が難しくなってしまいます。また、日本証券業協会も反社会的勢力の排除を掲げているため、反社会的勢力と関係を持つ従業員を採用したら、上場が廃止になりかねません。
(※2)金融庁:反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について
取引先や顧客からの信用低下
反社会的勢力と関係がある従業員を雇用していると、取引先や顧客からの信用が低下してしまうでしょう。取引先や顧客からの信用が低下してしまうと、金融機関からの融資停止と同じく事業の継続が難しくなります。
<h4>社内の従業員への影響</h4>
反社会的勢力と関係を持つ従業員がいると、他の従業員に影響が及んでしまいます。例えば、従業員のなかには自社のコンプライアンスへの意識の低さを理由に離職してしまう可能性があるでしょう。
履歴書・職歴に偽りがないかが分かる

企業が求職者を採用する場合、履歴書や職務経歴書を提出してもらうのが一般的です。通常であれば、求職者は履歴書や職務経歴書を偽りなく記載します。しかし、一部の求職者のなかには履歴書、経歴書を偽る人もいます。
そのため、履歴書や職歴に偽りがないかを採用前の身辺調査で調査しましょう。
履歴書・職歴の偽りに気付かないとさまざまなデメリットにつながる
求職者が提出した履歴書や職歴の偽りに気付かず、そのまま採用してしまうと企業にさまざまなデメリットが発生してしまいます。例えば自社が求めるスキルを有していない従業員を採用すると、業務効率の低下が懸念されます。
スキルを身に着けるまでの教育コストがかかるだけでなく、採用した従業員が離職する可能性もあるでしょう。従業員が離職してしまったら、改めて求人情報を出す必要があります。また、他の従業員のモチベーション低下にもつながる恐れがあるでしょう。その結果、他の従業員の業務効率低下や離職につながりかねません。
応募者へのメリットもある
採用前の身辺調査は企業ばかりにメリットがあるわけではありません。応募した求職者にもメリットもあります。企業は身辺調査によって求職者のことをより深く理解できます。その結果、求職者は安心して入社できるでしょう。
企業は応募者に身辺調査の許可を取る際は、どちらにもメリットがあることを伝えることで了承を得やすくなります。
前科にまつわるよくある疑問
採用候補者の前科について調べる際は、前科にまつわるよくある質問を把握しておきましょう。前科にまつわるよくある質問として以下が挙げられます。
- 選挙権への影響
- 就職への影響
- 海外旅行への影響
- 前科が消えるかどうか
特に前科が消えるかどうかは、採用する側としては理解しておきましょう。
選挙権への影響

前科は選挙権に影響を及ぼします。公職選挙法では前科がある人のなかでも、次のような人が選挙権を失うとされています。
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
- 公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ、実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者。または刑の執行猶予中の者
- 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の者
- 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により、選挙権、被選挙権が停止されている者
- 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権、 被選挙権が停止されている者
出典:選挙権と被選挙権|総務法
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo02.html
つまり、禁固以上の刑を受けて刑期を終えているのであれば、前科があっても選挙権は認められます。
就職への影響
前科は就職へも影響を及ぼします。例えば次のような職業は前科による資格制限が設けられています。
- 警察官
- 裁判官
- 検察官
- 弁護士
- 医師
- 公認会計士
一般職であっても就業規則によっては解雇になる可能性もあるでしょう。採用候補者の身辺調査をする前には、自社の就業規則に前科についての記載があるかを確認しておくのがおすすめです。
海外旅行への影響

海外に旅行する際はパスポートが欠かせません。前科があったとしてもパスポートの発行は認められます。しかし、一部のケースではパスポートの発行が認められないケースがあるでしょう。
例えば次のようなケースでは前科を理由にパスポートが発行されません。
- 渡航先の法律によって入国が認められない
- 仮釈放や執行猶予期間にあたる
- 公文書偽造罪などの前科がある
海外旅行に行けないということは海外出張もできないことになります。採用候補者に前科がある場合、海外出張もできないため業務に支障が出てくるでしょう。
前科が消えるかどうか
採用候補者の身辺調査をするうえでは、前科が消えるかどうかを把握しておきましょう。
一度ついた前科は生涯消えることはありません。犯歴事務規定18条では該当者が亡くなったことを機に前科情報が消えることになっています。
前科は生涯消えることはありませんが、前科の効力は消えることがあります。効力が消えることで、前科を理由に就けなかった仕事や取得できなかった資格が認められます。
前科の効力が消えるタイミングは次のとおり、実刑と執行猶予とで異なります。(※3)
- 禁錮以上の実刑:10年
- 罰金以下の実刑:5年
- 執行猶予:1~5年の範囲内で裁判官が判断
(※3)総務省:参照条文(刑法(明治40年法律第45号》)
採用候補者の前科や職歴をチェックするリスク
採用者候補者の前科や職歴を自社でチェックすることで、自社の反社会的勢力との関係が分かる、履歴書・職歴に偽りがないかが分かるなどのメリットにつながります。しかし、メリットだけではありません。
自社で採用候補者の前科や職歴をチェックすることは次のようなリスクにつながりかねません。
- 個人情報の取り扱いリスク
- 解雇権の濫用リスク
- 職業安定法に違反するリスク
個人情報の取り扱いリスク
採用候補者の前科や職歴を調査する場合、当然、本人の個人情報を取り扱う必要があります。個人情報の取り扱いには細心の注意が必要です。例えば本人に無断で身辺調査をすると、個人情報保護法に反する可能性があります。
個人情報保護法に反した場合、個人情報保護委員会から勧告・命令が下されます。個人情報保護委員会からの勧告・命令を無視していると、罰則が科せられかねません。(※4)
個人情報法に沿うために、身辺調査の実施前に必ず本人から了承を得ておきましょう。
個人情報に配慮して身辺調査を実施するためにも、なぜ身辺調査を実施するのかを丁寧に採用候補者に説明しましょう。その後、了承を得られたら書面で残しておくことも大切です。
(※4)個人情報保護委員会:個人情報取扱事業者等が個人情報保護法に違反した場合、どのような措置が採られるのですか。
解雇権の濫用リスク

使用者は労働者に対して解雇を言い渡す権利が認められています。このような権利が解雇権です。しかし、解雇権はすべてが認められているわけではありません。
解雇権が認められるのは次のようなケースです。
- 合理的な理由があり、解雇が社会一般的に相当であると判断できる
第三者からみて、上記のように判断できない場合は、解雇権の濫用と扱われる可能性があります。これは雇用前の内定者に対しても同様です。
就労の有無はあるものの、内定者は従業員と同じ立場にあると考えられるため、身辺調査の結果で内定を取り消すのは解雇権の濫用にあたります。解雇権の濫用とみなされないためにも、身辺調査は内定通知前に実施しましょう。
職業安定法に違反するリスク
採用候補者の身辺調査は職業安定法に違反するリスクをはらんでいます。企業は次のような理由で採用・不採用を決めてはならないとされています。
事項の種類 | 具体例 |
---|---|
本人に責任のない事項 | 出生について家族について家庭環境について など |
本来自由であるべき事項 | 宗教について支持政党について思想について など |
身辺調査によって上記のような事項について把握したとしても、採用・不採用の判断材料とするのは不適切です。このような情報を理由に採用、不採用を判断すると職業安定法に違反しかねません。
職業安定法に違反すると改善命令を言い渡され、命令を無視すると罰則として6ヶ月以下の懲役もしくは30 万円以下が科せられる恐れがあります。
採用候補者の前科や経歴を調べて理想の採用につなげよう
採用候補者に前科があるかどうかを把握する際は、前科と逮捕歴、前歴の違いを把握しておきましょう。身辺調査によって採用候補者の前科や経歴を調べることで、履歴書や職務経歴書の事実確認、反社会的勢力との関係の確認などが可能です。
採用候補者の前科や経歴は自社でも調査可能です。しかし、自社で調査するとなると個人情報の取り扱いや解雇権の濫用などのリスクにつながりかねません。自社で調査するリスクを考慮して探偵への調査依頼も検討してみましょう。