勤怠管理や給与計算といった手間のかかる人事業務を効率化するため、HRテックを導入する企業が増えてきました。HRテックをうまく活用して業務を効率化すれば、労働力不足に対応でき、多様な働き方を実現することにもつながります。
この記事では、HRテックの意味やメリットなどを詳しく解説します。導入を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
HRテックとは?

HRテック(エイチアールテック)とは、人事に関する課題を解決するための技術やシステムのことです。「Human Resources」の頭文字を取った「HR」と、テクノロジーを意味する「テック」という言葉を組み合わせてつくられています。
HRテックの大きな魅力は、AIやビッグデータ、クラウドなどを活用して、手間のかかる人事業務を効率化できることです。従業員数が多くなるほど、勤怠管理や人事評価に時間がかかってしまいます。そこでHRテックを導入して、ヒューマンエラーを防止しつつ、採用活動や勤怠管理を効率化しようとする企業が増えてきました。
HRテックの具体例
HRテックは、人事に関するさまざまな領域で活用されています。よく使われているHRテックの具体例は、以下のとおりです。
- 人事管理システム
- 勤怠管理システム
- 採用管理システム
- 人事評価システム
- 給与計算システム
業務効率化を図るため、すでに社内で導入しているシステムもあるかもしれません。また、これから導入を検討していく場合は、自社に合ったシステムを選ぶことが重要です。現在は数多くのシステムが開発されており、搭載されている機能はそれぞれ異なります。人事に関する課題を明確にしたうえで、解決につながるシステムを導入しましょう。
HRテックが注目されている背景
HRテックが普及してきた背景として、以下のようなことが挙げられます。
1.AIやクラウド技術の発達
AIやクラウド技術などが発達したことにより、多くの便利なサービスが開発される時代になりました。以前は、ソフトウェアを購入して自社のパソコンにインストールしたり、社内にサーバーを設置してシステムを構築したりするのが一般的でしたが、クラウド技術を活用してオンライン上で利用できるシステムが増えてきています。
クラウド型システムの特徴は、導入費用やランニングコストが比較的安いことです。AIがデータを自動集計してくれる、法律改正に合わせて自動的にアップデートされるなどのメリットもあり、多くの企業で導入が進んでいます。
2.少子高齢化による労働力不足
労働力不足が進行していることも、HRテックに注目が集まる理由のひとつです。企業は少ない人数で事業を展開していくために、これまで以上に従業員のスキルや経験をしっかりと把握し、適材適所を実現しなければなりません。
また、少ない労働力を奪い合う状況になり、採用活動における企業同士の競争も激化しつつあります。従来のようなアナログな方法だけに頼っていると、戦略的な人事管理や採用活動を行えないため、HRテックを活用して厳しい状況を打開しようとする企業が増えてきました。
3.働き方の多様化

働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症の影響により、リモートワークやフレックスタイム制などを取り入れる企業も増えてきました。しかし、リモートワークを取り入れると、タイムカードによる出退勤時刻の記録など、従来のような出社を前提とした勤怠管理は行えません。
また、フレックスタイム制を導入すると、従業員ごとの勤務時間の管理が複雑になり、人事担当者の負担が大きくなってしまうでしょう。そこで、社外にいてもオンラインで打刻できるシステムや、勤務時間を自動で集計できるシステムを活用して、人事に関する業務を効率化しようとする企業が増えているのです。
HRテックに活用されている主な技術
HRテックには、AIやビッグデータ、クラウドなどの技術が活用されています。HRテックへの理解を深めるため、それぞれの技術について簡単に確認しておきましょう。
1.AI
AI(人工知能)は、HRテックに限らず、幅広い分野で活用されている技術です。HRテックの分野におけるAIはまだまだ発展途上ですが、蓄積された従業員のデータをもとに適切な人材配置を提案したり、労働時間や残業時間をわかりやすくグラフ化したりするシステムも登場してきています。
AIにすべての判断を任せることはできませんが、うまく活用すれば人事業務を効率化することが可能です。
2.ビッグデータ

ビッグデータとは、人間では全体像を把握できないほど膨大な情報の集合のことです。ビッグデータには、テキスト・画像・動画・音声など、さまざまな情報が含まれます。
たとえば人事の領域では、日々蓄積される従業員の勤怠情報、スキルや保有資格、人事評価情報などを扱うことになります。従業員数が多くなるほど情報量が膨大になり、人事担当者だけでは把握しきれないでしょう。しかし、システムを活用すれば膨大なデータを分類して整理したり、可視化して分析したりすることが可能です。
3.クラウド
クラウドとは、インターネットを介してサービスを利用したり、データを送受信したりする仕組みのことです。クラウド技術を活用すれば、パソコンにソフトウェアをインストールしたり、社内にサーバーを設置したりする必要はありません。通信環境さえ整っていれば、どこからでもクラウド型システムにアクセスできます。
HRテックの活用領域
HRテックは、人事に関する多くの領域で活用できます。以下、代表的な領域を紹介しますのでチェックしておきましょう。
1.勤怠管理

勤怠管理とは、従業員ごとの出退勤時刻や残業時間などを記録して管理する業務のことです。労働基準法による残業時間の上限規制を守ったり、有給休暇の取得義務化に対応したり、さまざまなルールに従う必要があるため、手間のかかる業務といえるでしょう。
従来のタイムカードなどで勤怠管理を行うことも可能ですが、集計に時間がかかり、人事担当者が負担を感じることもよくあります。また、出社を前提とした打刻方法では、リモートワークに対応できません。このような課題を解決するために、オンラインで打刻でき、労働時間を自動集計できる勤怠管理システムを導入する企業が増えてきました。
2.給与計算
HRテックを活用すれば、給与計算を効率化することも可能です。給与計算においては、従業員ごとの労働時間を正確に把握したうえで、丁寧に計算を進めなければなりません。残業や休日出勤に対する割増賃金、遅刻や早退に対する賃金控除などを考慮して計算することも必要です。
小規模な企業の場合は手計算で対応できることもありますが、従業員数が多くなると、計算に膨大な手間がかかるだけではなく、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。ミスを防止しつつ計算業務を効率化したいときは、給与計算システムの導入を検討するとよいでしょう。
3.採用管理
採用管理においてもTRテックの活用が進んでいます。採用活動を進めるためには、応募者ごとの属性を整理したり、面接のスケジュールを調整したりしなければなりません。選考プロセスの進捗状況を把握しながら、適宜、応募者とコミュニケーションを取ることも重要です。
このように煩雑になりがちな採用活動を効率化するため、採用管理システムを導入する企業も増えてきました。システムをうまく活用すれば、オペレーション業務の多くを自動化でき、コストパフォーマンスのよい採用活動を展開できます。
4.人事評価
人事評価システムやタレントマネジメントシステムを活用して、従業員の評価や人員配置を最適化しようとする企業も増えてきています。人事評価に対応したシステムを活用すれば、評価項目を作成することはもちろん、結果を自動集計したり、データを蓄積して一元管理したりすることも可能です。
また、タレントマネジメントシステムを導入すれば、従業員のスキルや経験を可視化し、人事異動を最適化できます。企業の規模が大きくなるほど、従業員ごとの特性を把握するのが難しくなるため、システムの必要性が高まるでしょう。
5.満足度調査
従業員に対する満足度調査やエンゲージメント調査においても、HRテックが役立ちます。仕事内容や福利厚生に関する満足度調査や、会社への愛着を測定するエンゲージメント調査は、繰り返し行う必要がありますが、毎回、調査用紙を準備しているとかなりの手間がかかってしまうでしょう。
回収や集計にも手間がかかるため、オンラインで回答したり自動集計したりできるシステムに注目が集まっています。
HRテックを活用するメリット
HRテックを活用することには、コストを削減できる、コア業務に専念できる、ヒューマンエラーを防止できる、といったメリットがあります。それぞれのメリットについて簡単に確認しておきましょう。
1.コストを削減できる

HRテックを活用すれば、さまざまなコストを削減できます。たとえば、勤怠管理システムを導入すれば、紙の出勤簿やタイムカードが不要となるため、ペーパーレス化を図ることが可能です。印刷費や用紙代を削減できるだけではなく、紙の資料を保管しておく必要がなくなり、スペースの有効活用にもつながります。
また、システムを活用することで業務を効率化できるため、人件費を削減することも可能です。月末における労働時間の集計作業や複雑な給与計算を自動化すれば、残業を減らしつつ、人事担当者のストレスも軽減できるでしょう。
2.コア業務に専念できる
コア業務に専念できることもHRテックを活用する大きなメリットです。手間のかかる勤怠管理や給与計算などをシステムに任せることで、人事担当者は人間にしかできない重要な業務に専念できます。たとえば、採用計画の立案や従業員とのコミュニケーションなどに集中できれば、人事に関する業務の質が向上するでしょう。
3.ヒューマンエラーを防止できる
HRテックを活用すれば、ヒューマンエラーを防止することも可能です。注意して作業していたつもりでも、人為的なミスを完全に防止することはできません。タイムカードの集計時に転記ミスをしたり、給与計算時に労働時間の合計を間違えたりするケースもあるでしょう。
勤怠管理システムや給与計算システムを導入すれば、上記のようなヒューマンエラーを防止できます。複雑な計算でも正確かつスピーディーに行うことができるため、ヒューマンエラーが頻発している場合は導入を検討するとよいでしょう。
HRテックの導入手順
HRテックを導入するときは、以下のような手順で進めましょう。
1.人事業務に関する課題を把握する

HRテックを導入する前に、人事業務に関する課題を把握することが重要です。まずは人事に関する業務をすべて洗い出し、担当者の悩みを把握しましょう。具体的な業務としては、勤怠管理・給与計算・人事評価・採用管理・福利厚生の管理などが挙げられます。
業務を洗い出したら、それぞれの課題を抽出します。タイムカードの集計でミスが多発している、採用候補者とのスケジュール調整に時間がかかっているなど、担当者の意見を聞きながら課題を具体的に把握していきましょう。
2.HRテックによって解決できる課題を明確にする
次に、それぞれの課題がHRテックによって解決できるかどうか検討しましょう。たとえば、タイムカードの集計や採用候補者とのスケジュール調整は、HRテックによって効率化できます。有給休暇の申請・承認フローや福利厚生の利用申請の処理なども、HRテックによって効率化することが可能です。
逆に、従業員との面談や採用候補者との密なコミュニケーションは、HRテックによって代替することは難しいでしょう。業務ごとの特性を理解したうえで、HRテックで代替できるかどうかを検討することが重要です。
3.全体的なスケジュールを立てる
HRテックによって解決すべき課題が明確になったら、全体的なスケジュールを立てましょう。いつまでにHRテックを導入するのか、いつまでに課題を解決するのか、目標達成までの期限を設定しておくことが大切です。もちろん、状況に応じて変更する可能性もあるため、この段階ではざっくりとしたスケジュールでも問題ありません。
4.導入するシステムを検討する
次に、課題を解決するために必要なシステムやツールを選定します。勤怠管理システム・給与計算システム・人事評価システムなど、さまざまなタイプのものが存在するため、課題に合わせて選ぶことが重要です。
導入するシステムを選ぶときは、導入費用やランニングコストが予算に合っているか確認しましょう。使い勝手やサポート体制についてもチェックしておくことが重要です。また、勤怠管理から給与計算まで網羅的に行えるシステムもあります。複数の課題を一気に解決したい場合は、多機能なシステムを選ぶとよいでしょう。
5.システムの導入を進める
最適なシステムが見つかったら、実際に導入を進めていきましょう。人事担当者だけで導入を進めることは難しいため、プロジェクトチームを立ち上げるなど、複数人で進めることがおすすめです。
また、システムを導入するだけで、社内の課題を解決できるわけではありません。社内のルールに合わせてシステムを設定したり、実際に使うことになる従業員に使い方を説明したりすることも必要です。必要に応じて説明会を開催するなど、システムをうまく運用できるように努力しましょう。
6.HRテックの効果を検証する
システムを導入してしばらく時間が経ったら、効果を検証することが重要です。システムの導入により、人事担当者の負担や残業時間が減っているか、ヒューマンエラーの発生率は下がっているか、従業員の定着率は向上しているかなど、効果を具体的に把握しましょう。
必要に応じて、従業員の意見を聞いてみることも大切です。期待していたほどの効果が出ていない場合は、システムの選定や運用ルールの設定に間違いがあったかもしれません。別のシステムに変更する、ルールを改善するなど、必要な対策を講じていくことが重要です。3ヶ月、半年、1年など、定期的に効果検証の機会を設定し、長期的な視点で課題を解決していきましょう。
HRテックを活用して人事業務の課題を解決しよう!
今回は、HRテックの意味や活用するメリット、導入するまでの手順などを解説しました。勤怠管理や給与計算など、手間のかかる人事業務を効率化するため、HRテックを活用する企業は増えてきています。
自社に最適なシステムを導入することで、ヒューマンエラーを防止しつつ、担当者の負担を軽減できるため、課題を抱えている場合は導入を検討してみましょう。HRテックを導入するときは、自社の目的や予算を明確にしておくことが重要です。そのうえで、課題を解決するために最適なシステムを選びましょう。