従業員は自社にとって欠かせない資産のひとつです。しかし、従業員の素行によっては思わぬトラブルにつながる可能性があります。例えば従業員が反社会的勢力と関わっている場合、トラブルが発生するリスクがあるでしょう。
このようなリスクを軽減するためには、事前に反社チェックを実施するのがおすすめです。
この記事では採用候補者を反社チェックする方法や注意点などを解説します。
反社チェックとは?目的を解説

反社チェックとは企業がステークホルダーのなかに反社会的勢力と関わりがある人物がいないかを確認することです。企業にとってのステークホルダーの例としては以下が挙げられます。
- 取引先企業
- 関連会社
- 自社の役員
- 自社の従業員
- 主要株主
企業が関わる上記のようなステークホルダーが反社会的勢力と関わりがあれば、自社にとってトラブルの原因になりかねません。このようなリスクの原因を刈り取ることを目的に反社チェックは実施されます。
反社チェックを実施するうえでは、反社会的勢力の概要を把握しておきましょう。反社会的勢力は暴力団や暴力団準構成員だけではありません。暴力団関係企業や総会屋等、特殊知能暴力集団等も含まれます。そして、暴力団員を雇用している者も共生者として反社会的勢力に扱われてしまいます。
暴力団構成員、さらには暴力団準構成員の数は減少傾向にあります。公益財団法人 千葉県暴力団追放県民会議の発表によれば、令和に入ってからの暴力団構成員、暴力団準構成員の人数は次のとおり推移しています。(※1)
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年末 | |
---|---|---|---|---|
暴力団構成員 | 14,400人 | 13,300人 | 12,300人 | 11,400人 |
暴力団準構成員 | 13,800人 | 12,700人 | 11,900人 | 11,000人 |
合計 | 28,200人 | 25,900人 | 24,100人 | 22,400人 |
令和元年から令和4年末にかけて、暴力団構成員+暴力団準構成員の人数が約6,000人も減少しています。発表のなかで最も古い平成23年は70,300人(暴暴力団構成員+暴力団準構成員)だったことを踏まえると大幅に減少傾向にあります。
しかし、反社会的勢力は暴力団構成員、準構成員だけではないため、入念に反社チェックを実施しましょう。
(※1)公益財団法人 千葉県暴力団追放県民会議:全国の指定暴力団
リファレンスチェックとの違い
反社チェックで自社の従業員をチェックするように、リファレンスチェックも自社の従業員を対象としたチェックです。反社チェックは従業員をはじめとしたチェック対象者が、反社会的勢力と関係を持っているかを探ります。
一方、リファレンスチェックでは反社会的勢力との関係は調査しません。従業員の職歴や勤務態度などを、前職の上司や先輩などにヒアリングします。リファレンスチェックではあくまで職場での様子しかチェックできません。
反社チェックの対象となる従業員

反社チェックの対象となる従業員に定めはありません。しかし、一般的には正規雇用の従業員だけでなく、非正規雇用のアルバイトやパートも対象に実施します。
正規雇用の従業員は長期にわたり企業に影響を及ぼす
正規雇用の従業員は企業の中核を担う存在です。そのため、正規雇用の従業員の働きが企業の将来に大きく影響を及ぼすため、反社チェックによって反社会的勢力との関係を把握しておきましょう。
正規雇用の従業員は長期にわたり企業に在籍する可能性が高いため、万が一のことがあると長きにわたり企業に影響を及ぼしかねません。
非正規雇用の従業員は外部との接触が多い傾向にある
アルバイトやパートといった非正規雇用の従業員は窓口対応や電話対応など、外部との接触が多い傾向にあります。そのため、非正規雇用の従業員の行動や対応は取引先や顧客に影響を及ぼす可能性があります。
顧客、取引先対応でネガティブな印象を与えないために、反社チェックで反社会的勢力との関係性を調べましょう。
反社チェックを実施すべき3つの理由
反社チェックを実施すべき理由は大きく次の3つです。
- 指針で義務付けられている
- 暴力団排除条例に従うため
- 上場や金融機関の融資に影響があるため
上記以外にも、自社の就業規則で反社会的勢力との関係遮断について記載されているケースもあるでしょう。
指針で義務付けられている

政府は指針として「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を2007年に発表しました。(※2)
同指針では反社会的勢力との関係遮断を掲げています。反社会的勢力と関係のある従業員を雇用していては、関係遮断は実現できません。そのため、反社チェックで反社会的勢力と関係のある従業員が在籍していないかを確認しましょう。
(※2)法務省:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について
暴力団排除条例に従うため
各都道府県の自治体では暴力団排除条例を制定しています。暴力団排除条例に従うためにも反社チェックで自社の状況を明らかにしましょう。
自社に反社会的勢力と関わりのある従業員が在籍している場合、コンプライアンス違反につながってしまいます。反社会的勢力と関わりがある従業員を採用してコンプライアンス違反が疑われると、次のようなリスクにつながりかねません。
- 損害賠償責任を負うリスク
- 社会的信用を失うリスク
- 従業員が離職するリスク
損害賠償責任を負うリスク
反社会的勢力と関わりがある従業員が顧客や取引先に損害を与えてしまった場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。損害賠償の金額にもよりますが、あまりにも多額の損害賠償を請求されてしまったら経営に影響を及ぼしかねません。
社会的信用を失うリスク
コンプライアンス違反をしてしまうと、社会的信用を失ってしまう可能性があります。社会的に法令を遵守しない企業であるというイメージが定着してしまうため、社会的信用は低下するでしょう。
低下してしまった社会的信用を取り戻すのには時間がかかります。企業によっては社会的信用を失ったことで経営が立ち行かなくなる恐れもあるでしょう。
従業員が離職するリスク
従業員の離職もコンプライアンス違反によるリスクのひとつです。例えばコンプライアンス違反によって自社の売上、業績が低下してしまった場合、従業員が離職してしまう可能性があります。
従業員が離職してしまうと、新たに採用をかける必要があります。採用活動には一定の費用がかかるため、コストがかさんでしまうでしょう。
上場や金融機関の融資に影響があるため
日本証券業協会は、反社会的勢力との関係遮断のために「反社会的勢力との関係遮断に関する規則」を定めています。そのため、自社に反社会的勢力と関係ある従業員がいる場合、上場廃止の可能性があるでしょう。また、金融機関も反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みを推進しています。従業員を介して反社会的勢力と関係があると判断されてしまったら、融資が滞る恐れがあります。
融資が滞ってしまうと、事業の継続に影響が出てきてしまうでしょう。
反社チェックを実施するタイミング

新たに採用しようとしている候補者が反社会的勢力と関わりがないのか、反社チェックは採用前に実施しましょう。採用前の反社チェックは正規雇用に限らず、アルバイトやパートといった非正規雇用者であっても実施することが大切です。
採用前に反社チェックをすることで、反社会的勢力と関わる従業員を採用するリスクを軽減できます。新たに入社する従業員のバックグラウンドを事前に把握できるため、既存の従業員も安心して迎え入れられるでしょう。
また反社チェックと合わせて雇用契約書に反社条項を入れるのがおすすめです。反社条項は、採用する候補者に反社会的勢力ではないことを誓約してもらう条項です。加えて、暴力的な要求をしないことを候補者と自社と相互に示す役割も担っています。
反社条項を設けておくことで、万が一従業員が反社会的勢力であった際に雇用の解除が可能です。
反社チェックは定期的に実施する
反社チェックは採用前だけでなく、定期的に実施するのがおすすめです。採用時には見逃していた点や新たに反社会的勢力と関係を持つ可能性もあるでしょう。
そのため、定期的に反社チェックを実施して問題がないかを確認しましょう。
反社チェックを実施する方法
反社チェックを実施する方法は大きく次の3つです。
- 自社で調査する
- 行政機関に相談する
- 探偵に依頼する
自社で調査する

反社チェックは自社で実施可能です。例えば採用を検討している候補者が反社会的勢力と関係ないのかを調べるには、ニュース情報やインターネット検索が有効です。新聞社のホームページであれば過去の情報も閲覧可能です。なかには閲覧期限が過ぎた情報を転載しているサイトもあるでしょう。閲覧期限が過ぎた情報を掲載しているサイトがあった場合、鵜呑みにするのは注意が必要です。情報が誤っている可能性があります。
また、自社で調査する際は反社会的勢力の情報についてまとめたデータベースを活用するのもおすすめです。データベースは有料なものの、インターネットですぐに検索可能です。
行政機関に相談する
自社で調査して反社会的勢力との関係が疑われるのであれば、行政機関に相談してみましょう。
相談先として警察や公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターなどが挙げられます。警察をはじめとした行政機関に相談することで、対象の候補者について調べてくれる可能性があります。
探偵に依頼する

自社で調査してもなかなか様子が分からないのであれば、探偵に調査を依頼してみましょう。探偵に依頼すれば自社よりも詳細な調査が期待できます。探偵はインターネットを活用した調査だけでなく、官公庁情報の調査や聞き込み、独自のルートを用いた調査を実施します。
探偵に依頼するメリットは詳細な調査ができるだけではありません。採用候補者の反社チェックは個人情報を取り扱います。探偵であれば慎重な個人情報の取り扱いが期待できるでしょう。
反社チェック実施のポイント
反社チェック実施のポイントは次のとおりです。
- 個人情報の取り扱いに注意する
- 適切なタイミングでチェックを実施する
- 解雇権の濫用に注意する
- 就職差別に注意する
個人情報の取り扱いに注意する

先述のように、反社チェックでは個人情報を取り扱うことになります。
個人情報は適切な取り扱いをしなければなりません。例えば対象者に無断で調査することは個人情報保護法に反してしまいます。
個人情報保護法に反した場合、個人情報保護委員会から勧告・命令が下されます。勧告、命令を無視してしまうと、罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられてしまうので注意しましょう。(※3)
(※3)個人情報保護委員会:個人情報取扱事業者等が個人情報保護法に違反した場合、どのような措置が採られるのですか。
本人の同意を得るにはなぜ調査するのか明確に伝える
反社チェックを実施するには、対象者本人の同意を得なければなりません。しかし、自分の過去などを調査されることに対して、人によっては不快に思う可能性があるでしょう。
そのため本人からの同意を得るには、なぜ調査をするのか目的を明確に伝えて納得してもらいましょう。
本人からの同意を得られたら書面で残しておくことが大切です。後々、同意した・しないで揉めるのを防ぐのに有効です。
適切なタイミングでチェックを実施する
反社チェックは適切なタイミングで実施することが大切です。先述のように、反社チェックは採用前に実施しましょう。具体的には内定を出す前にチェックするのがポイントです。
内定を出した後に反社チェックをしてしまうと、内定取り消しが認められない可能性があります。内定取り消しでトラブルを起こさないためにも、反社チェックは内定通知前に実施しましょう。
解雇権の濫用に注意する
採用候補者の反社チェックを実施する際は、解雇権の濫用に注意が必要です。解雇権とは使用者が労働者を解雇できる権利です。使用者には解雇権が認められているため、労働者を解雇できます。しかし、すべてが認められるわけではありません。労働者の解雇が合理的な理由や一般的な通念に反していると判断されるのであれば、解雇権の濫用として解雇は認められません。
内定通知を出した採用候補者であっても、解雇権の濫用が通用される可能性があるでしょう。就労の有無はあるものの、内定者は従業員と同じ立場にあると考えられるため、合理性、社会通念に反していると内定取り消しが認められません。
就職差別に注意する
企業が従業員を採用する場合、次のような理由で採用・不採用を決めてはならないとされています。
事項の種類 | 具体例 |
---|---|
本人に責任のない事項 | 出生について家族について家庭環境について など |
本来自由であるべき事項 | 宗教について支持政党について思想について など |
反社チェックを進めるうえで上記のような情報を把握したとしても、採用・不採用の判断材料にしてはいけません。上記のような情報をもとに採用・不採用を判断した場合、職業安定法に違反するとして改善命令が出されます。
改善命令に従わなかった場合、罰則として6ヶ月以下の懲役もしくは30 万円以下の罰金が科せられます。(※4)
(※4)東京労働局:公正な採用選考を行うために
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/saiyou.html
採用予定者が反社だった場合の対応
採用を予定している候補者を反社チェックして、反社会的勢力と関係がなければ採用を進めましょう。しかし、反社会的勢力と関係を持っている可能性もあるでしょう。
そのような場合は次のような対応を取りましょう。
解雇の手続きを取る
解雇の手続きを取るうえでポイントになるのが、誓約書の反社排除についてです。反社排除について記載した誓約書に同意しているのにも関わらず、反社会的勢力と関係があったのであれば、経歴詐称もしくは服務規程違反と見なされます。経歴詐称、服役規定違反を理由に懲戒解雇の手続きを取りましょう。
一方、誓約書に反社排除について記載していない場合、解雇権の濫用として懲戒解雇は認められない可能性があります。万が一に備えて反社排除について記載した誓約書を用意しておきましょう。
弁護士に相談する

採用を予定していた候補者が反社会的勢力との関係が分かったら、弁護士に相談するのもポイントです。反社会的勢力についてのトラブルを自社で解決するのは難しいでしょう。そのため、弁護士に相談して対応を仰ぎましょう。
弁護士以外にも、全国暴力追放運動推進センターや管轄の警察にも相談することも大切です。
反社チェックを実施して万が一のリスクを回避しよう
反社チェックとは自社の従業員や採用候補者、取引先などのステークホルダーが反社会的勢力と関わりがないかを確認する方法です。採用候補者が反社会的勢力と関わりがないかチェックすることで、コンプライアンス違反やそれに伴う業績悪化リスクなどを回避できます。
採用候補者の反社チェックは自社で実施するだけでなく、探偵に依頼可能です。自社で反社チェックをする際は個人情報の取り扱いに注意が必要なため、探偵に依頼するのがおすすめです。